「膝を伸ばさないで」の本当の意味
膝は多くのことを語っています。膝の様子を見ると、靴の中で足がどんな状態なのかはわかります。
お客様とエクササイズをする際、「もっと膝をゆるめて」「膝を伸ばさないで」と伝えることがとても多いです。10人中9人の方には言っている気がします。
残念ながらほとんどの人が必要以上に膝を伸ばし過ぎ、つまり固めた状態で使ってしまっているからです。これでは足部も股関節も思うように動いてくれません。
「膝に力入ってますよ」なんていう言葉はもはや逆効果で、本人は膝に力を入れているつもりはまったくないのです。「身体が反動で大きく揺れてしまうので、このエクササイズでは少し膝をゆるめてみましょうか~」と声をかける程度にとどめています。
じゃあ、いつも膝を曲げていればいいのか?と思われそうですが、そういう問題でもなく。実際、高齢者の腰や膝が曲がり伸びなくなった姿は機能的とは言えません。膝が曲がっているのはみっともないから伸ばそう、伸ばそう・・・多くの人がこう考えているのだと思います。ここに落とし穴があります。
この「膝伸ばし過ぎ問題」が今回のテーマです。
まずはじめに、くの字に曲がったボール紙を脚に例えて話しますね。
折れ目をなくして真っすぐにする方法が2つあります。
①Aを上に引っ張り、Bを下に引っ張る方法。
②Cを曲がっているのと逆方向へと押していく方法。
身体にあてはめるとこうなります。
①足で地面をとらえる力、身体を上に引き上げる力により膝が伸びている状態。
②膝をグッと後方へ押すように伸ばす。関節の柔らかい人では膝が反張(はんちょう)します。
さて、どちらが良い方法でしょうか?
答えは①だと考えています。
①のように上下に引っ張りあって、膝が自然に伸びている分には、問題にはなりません。
私たちが「膝を伸ばさないで」と注意する時は、②のように膝を後方に押すように、固めて使っている場合です。
ポイントをいくつか解説します。
●膝をロックすると・・・
立っている時、膝をピンと伸ばし切ると、膝にロックがかかったように固定されます。人体に備わった機能ですので、ロックをかけて良い場面もあります。
ただ、これが癖になってしまうと、壁にもたれかかって立っているのと同じ原理で体幹の筋肉がきちんと働かなくなります。足が弱い場合も、やはり膝をロックすることで楽をする傾向にあります。一度、生活の中でどのくらい膝をロックしているか気にしてみても良いかもしれません。
また、まっすぐ硬直しているほど弱いものはない、と認識する必要があります。太極拳などの武術では、肘・膝といった関節は常にピンと伸ばしきらないように、と教えられます。攻撃も防御も、関節を伸ばしきる動きはほとんどありません。
●“歩く時に膝がカクカク曲がってしまう日本人”
が多いのは事実。でもこれ、「膝を伸ばそう」という意識では改善できません。土台である足・足首がしっかり安定していること、重心が引きあがっていることが不可欠です。重心が高い位置で推移すれば、自然に膝が伸びてきます。
たまに歩く時にも膝を伸ばそうと必死に力を込めている人(無意識なのかもしれませんが)を見かけます。この場合の力は、膝を後ろに押し込む方向に働いています。着地衝撃を身体で吸収できなくなり、こういう人がフローリングの上を歩いてくると、ゴジラかな?くらいのすさまじい音がします。同じ部屋に一緒に居るとツライです(笑)。
●膝を伸ばしきるのは、足、体幹、背中などをバランスよく鍛えた人だけの特権!
バレリーナなどが良い例です。バレエの世界では膝が反張しているのが美しいと言われます。あの反った膝を素人が下手に真似すると、あっという間に膝を痛めます。前ももの筋肉が発達し過ぎるし、腰は反るしで、見た目上も実はあまり得をすることはないのです。
●地面を正しく踏めて、重心を高く保つ身体の使い方ができると、自然に膝は伸びる。「伸ばす」ではなく「伸びる」です!!!
↓ ↓ ↓
上に書いたすべての内容をひっくるめて「膝を伸ばさないで」と言うのですが、色々と誤解を招くことも多いので、言葉の後ろにある意味を書いてみました。
※膝を「押す」や「固める」もイメージ上の言葉なので、いい表現かどうかわかりません。出来るだけ専門用語を少なく説明してこのようになりました・・・。もっといい表現があるかもしれません。
動作を言葉で示すのは難しいことです。
最後に見事な膝の使い方をしている映像を紹介します。
皆さんよくご存じの元陸上競技短距離選手、ウサイン・ボルト選手(元選手?)です。
リラックスしているのに、脱力していない。
一瞬たりとも膝を伸ばし切って身体の重みを足元に預けたりはしていません。
足や背中の状態はかなりアクティブ*だと思います。隣にいるホストの男性と比べ、静止できていないことからもわかりますよね。止まれと言われたら止まれるはずですが、絶えず動いているのが彼にとっては自然なのでしょう。
*・・・アクティブとは、いつでも、どの方向へも動ける状態にあるという意味。人間は移動するに適した身体を与えられていると考えると、とても理にかなった立ち方だと言えます。
膝のロック機能が発達していない赤ちゃんには「膝カックン」が通用しないそうです。おそらくボルト選手にも「膝カックン」使えないだろうなぁ、とこの動画を観ながら思いました。
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