BORN TO RUN ~走るために生まれた~レビュー(後半)

―前半からのつづき―

『BORN TO RUN』の発売により急激に「ベアフット(=裸足の)・ランニング」文化が広がり、ランニング業界での走り方の根本が変化したと言われています。

確かにこのころから、ヒールストライク(かかと着地)ではなく、ミッドフット(中足部)またはフォアフット(前足部)で着地する走法が紹介されるようになり、それ用のシューズもどんどん開発されてきました。
ただ「着地をどこからするか」が重要なのではなく、姿勢が上向きに保たれていて、腰(身体)の下での地面をなでるような着地が出来ていると、身体の軸が安定して安全に走れる、ということに気づく人が増えたのです。

(以下引用部分はすべて要約)
身体はショックを受けないと、柔軟にならない。毎日同じことを繰り返していると、筋骨格系はすぐに適応の仕方を割り出し、自動操縦に切り替える。反対に、予測できないような様々な路面を、歩いたり、全力疾走したり、という多様な運動が、多数の神経と筋肉を刺激する。タラウマラ族にとっては、それが日常である。長い距離を走る以前に身体が強化されているのである。

この部分が、一番の真髄だと思います。
走ることに限らず、歩くことにも当てはまります。

さらに、肉体の驚異的な若さと強さを誇るタラウマラ族の生活に密着し、

食事に関しても、少なく食べる、よりよく食べる(肉や加工された炭水化物ではなく、果物と野菜中心の食生活。ピント豆、カボチャ類、チリペパー、野草、ピノーレ、それと大量のチア…といったものを食べている)。
自家製ビールにいたっては、われわれの知っているビールがただの砂糖水だとすれば、タラウマラ族のビールは全粒粉のスムージーのように豊かな栄養源である。

と紹介されています。かつ、人柄は総じて温厚で平和を好む民族である、とも。
とても興味深い部分です。

では、タラウマラ族やウルトラランナーのような、ごく一部の人だけが走ることを得意としているのでしょうか?
他の人たちはどうなのでしょう。こんな風に書かれています。

人間は走るために生まれた??
脊椎動物の全歴史を通じて、二本足で走る、尾のない動物は人間しかいない。項靭帯は、動物が早く動く時に頭を安定させる動きしかないため、歩く動物には必要ない。
豚には項靭帯はなく、あるのは、馬や犬、そして人間。
また、大きな尻も必要なのは走る時だけだ。
アキレス腱のゴムバンドのように伸縮する動きは、エネルギーをたくわえ、遠くへ飛ばすためにある。
つまり、早く進むではなく、遠くへ行くためのもの。ロコモーション(移動)のために備わったもの。
また、人間は皮膚がむき出しの汗をかく動物である。チーターは、走って体温が40.5度に達すると、足を止め、それ以上走ろうとしなくなる。一流のマラソン選手のように毎秒6メートルの速さで、何時間もジョグできる動物は他にいないのである。

人間の身体は、明らかに長距離を走り続けるために設計されている。

続いて、

2004年ニューヨークシティマラソンの結果を調べて、年齢別タイムを比較してわかったこと。
19歳を振り出しとして、ランナーたちは毎年早くなり、27際でピークに達する。27歳を過ぎると、タイムは落ち始める。では、19歳の時と同じスピードに戻るのは何歳のときか?
答えは64歳!
タイムが向上するスピードと衰えるスピードにこれほど差異があるのだ。それを考えると、人間は持久走が得意なばかりか、きわめて長期間にわたって得意でいられる。
年をとるから走るのをやめるのではなく、走るのをやめるから年をとるのだ。
脳は常にコスト削減や効率を生み出し、同時に肉体の耐久性を衰えさせつつある。
西洋における主な死因―心臓病、脳卒中、糖尿病、うつ病、高血圧症、十数種類の癌―のほとんどをわれわれの祖先は知らなかった。医学もなかったが、ひとつ特効薬があった。それは、「脚を動かすこと」。

ここまで読むと、タラウマラ族の驚異的な持久力や、世界中のウルトラランナー(ウルトラマラソン競技に挑戦する人)たちのことも現実として理解できます。
ちなみに、ウルトラマラソンとは、どんなものかご存じのない人のために例を挙げると、

例えばレッドヴィル・トレイル100というレース。
距離は100マイルなのでフルマラソンをほぼ4回分、その半分は暗闇の中で、途中に800メートルの登山が2回ある。スタートラインの標高は3000メートルほどで、さらにそこから登っていく。制限時間は30時間。
という、とてつもなく過酷なもの。

現代的な生活をしていると、必要に迫られて長距離を走ることはまずないし、ウルトラマラソンや山岳耐久レースなんて一部のドMな趣味の人のやることかと思っていました。
レース(競争)は抜きにしても、走ることで得られるトリップ(陶酔状態)というのは本当にあるのだと思います。
常識や想像を超えると、そこには別世界が待っているのかもしれません。

走ることは自由でいること。

と、この本は結論付けているような気がします。
そうだとすると、走らない理由はないのではないか?と思えてきます。

BORN TO RUN.
身体を動かすことや、健康に興味がある方には、是非読んでみて欲しい本です。

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